アルコールの甘い誘惑

うつとの相性ということで言うと、依存症はおそろしく親和性が高いと思います。
私がアルコールにどっぷり浸る生活を送るようになるまでには、さして時間もかかりませんでした。もともと酒がいける口だったということもありますが、それにしてもどえらいスピードでアルコール依存まっしぐらという有り様でした。
実際のところ、その変わりっぷりは今思い返してみても恐ろしいほどでしたし、うつ関連のさまざまな情報にあたってみても、うつとアルコールの悪しき相乗効果については判で捺したような記述が並べられています。
それくらい、うつとアルコールは仲良しさんだということなのでしょう。

私の場合は、うつでろくろく仕事ができず、昼間からソファにじっと横になって過ごす時間の、あの罪悪感やら諦めやらがひとまとめになった重苦しさから逃れたい一心で、安易に酒に走っていきました。
例によって、深海に沈んだ鉛の塊のような状態になっていた俺が、あるとき冷蔵庫の扉を開けてみると、昨夜の飲み残しの缶ビールが1本、そこに鎮座していたのです。
別に酒を飲みたい気分でもなかったのですが、…あれは習慣とでもいうのでしょうか、冷えた缶ビールを前にして、すでに抑制が効かなくなっていたんでしょう。おもむろにバシュッと口を開け、なんのためらいもなくゴクリゴクリと飲み干したのです。

するとどうでしょう。
さっきまで私の頭に覆い被さっていたモヤモヤがスウッと引いていくではありませんか。いくぶん、気分も良くなったようです。何より気持ちが落ち着きを取り戻し、眉間にギュッとシワを寄せ続けていた精神状態が、やんわりとほぐれていきました。
つまり、うつを忘れることができたのです。これは大きな発見でした。

もちろんこれはアルコールの見せるまやかしです。その時その場で酔っぱらっているだけで、何の解決にもなっていないのです。
でも私は気づいてしまったのです。
「飲めば、うつを忘れられる」と。

こうして目に見えて酒量は増えていき、私は「昼間から」どころか
「朝、起きたら缶ビール」という生活に馴染んでしまうことになります。
そうなるまでには、ひと月とかかりませんでした。

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