つい先日、元同僚のデザイナーの男と久しぶりに飲んだのです。
彼は私がうつを発症した頃に一緒に仕事をしていて、
いつも私を気遣ってくれたものでした。
私がうつを発症して仕事を離れ、その後回復して復帰したときも、
以前同様に一緒に仕事をしてくれた人物です。
ですがその後私が一度の再発を経て完全復帰を果たしたとき、
彼の属する会社と袂を分かつことになり、
それきりしばらく疎遠になっていました。
ただ、彼のデザインの腕は信頼していましたから、
時々は個人的に仕事をお願いしたりもしていたのです。
ところが当時の彼はかなり精神的にきつい状態におちいっていたようでした。
家族を養っていくには、あまりに少ない収入。
上司や顧客からの理不尽な要求。
誰も聴いてくれない自分の意見。
彼はかなりストレスフルな環境に置かれていたように、
私の目には映っていました。
だから「もしも『おかしい』と少しでも思ったら、相談してくれ」と、
それだけは伝えておいたのです。
ですが、彼はうつを発症することはありませんでした。
4年ぶりくらいで会って話を聞いてみましたが、
私のようなドロドロの状態におちいることはなかったようです。
その大きな理由は、「愚痴を聴いてくれる相手」がいたからでしょう。
彼の周りにいる人々…家族をはじめ、同僚や仕事仲間などが、
彼の愚痴をずいぶんと、聴いてくれていたようです。
そのためちょこちょこと「ガス抜き」ができていたのでしょう、
彼がうつを患うことはありませんでした。
私の場合を思い返してみると、「愚痴なんか、みっともない」という考えにとらわれ、
いつも平気な顔を装っていましたが…その裏で、
心がどんどん蝕まれていったのです。
おそらく、ここが私と彼との違いであり、
うつを発症するかどうかの分岐点でもあるのだろうと思います。
愚痴を言うのはみっともない、負けだと思い込んでいる人は多いかもしれません。
でも、負けられる時には負けておいたほうがいいこともあるようです。
彼は機会があるたびに負け続け、それによって大きなトラブルを避けることができたのです。
「負けるが勝ち」とは、まさにこういうことを言うのでしょう。