私がうつ絶好調の頃の話です。
昼間はひたすらソファにぶっ倒れて過ごすばかりですが、
夕方から夜になると日内変動のおかげで、いくらか元気が出てきます。
元気が出るといっても、最悪の状況だった頃は
「起きて、ウロウロできる」という程度のものでしたから
まぁ引きこもりには違いありません。
で、夕方に起き出すと当然宵っ張りになるわけで
そのまま明け方までPCの前でネット三昧の日々でした。
もちろん訪れる先はうつ関連のサイトやブログがほとんどなのですが
そうしたページでよく見かけたのが「病院、医師への不信感」でした。
何種類もの薬を処方され、本当にこんなに必要なのかと不審に思っている。
薬の副作用がひどく、耐えられない状態なのに、それに対してケアしてくれない。
何を訴えてもろくに聞いているようにも見えず、信頼感が崩れるばかりだ。
こんなような書き込みはよく目にしましたし、
中には「この医者は私を実験台にしている」というような、物騒な書き込みにもぶつかりました。
さすがに「私を実験台」というのは妄想の産物でしょうから、
話はうつ治療だけでは収まらないでしょう。
ですが問題なのは、医師や病院がこうした見方をされているケースがレアではない、というところでしょう。
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うつ患者にとって、病院や医師というのは数少ない味方ですから、
まずは頼りにする存在であるわけです。
まぁ、他の人はどうか知りませんが、少なくとも私はそうでした。
その一方で、うつ患者というのはすべてにおいてネガティブ思考ですから、
一度悪い方向に考えてしまうと、それを修正することができません。
数週間治療を受け、薬も変えたりしたにもかかわらず、症状がまったく良くならない…。
こんな状況になると「このドクターはダメだ」という結論に直結してしまうのでしょう。
確かに私自身、治療の初期に数種類の薬(決して多いとはいえない量だと思いますが)を処方されて
「こんなに薬を出すのか?」と、不審に感じたことはありました。
で、実際にドクター自身がすっごく朴訥な印象をお持ちの方で、
この先生ホントに大丈夫なのかと心配せずにはいられないような雰囲気をたたえていたのです。
余談ですが、私は若い頃に北杜夫さんの著作に触れてからというもの、
精神科医というものは得てして頭のネジが数本抜けているか、
あるいは明日にでも患者になり得る資質を秘めているか、
そのどちらか、あるいは両方だろうと堅く信じ込んでおります。
とは言いながらも、別段他の病院に鞍替えする理由もなく、
また通い続けるうちに、おっとり型のドクターへの好感も篤くなり
結局のところ寛解までの3年以上、お付き合いさせていただくことになったのは、
おそらく知らずに得た幸運だったのだろうと今は思います。
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他のあらゆる職種についていえることですが、
すべての医者が優れた人物であるわけはありませんし、
すべての医者があなたとウマが合うわけでもありません。
ですから「医者を替える」「別の病院に行く」という選択を、
私はまったく否定しません。
否定はしませんが、お勧めしないのも確かです。
うつは治療が長期にわたることが多いものですし、
そうなると治療において、それまでの経過が大きな判断材料になりやすいものです。
ひんぱんに病院を替えるのは、決して得策とは思えないのです。
それに、あなたが「病院を替えたい」と思う理由は置いておくにしても、
新たに移った病院では、また医師とのコミュニケーションを一から始めなくてはなりません。
効率が悪いったらありゃしないでしょう。
ですから一度病院に通い始めたならば、まずは最低でも二ヶ月くらいは通ってみて、
ドクターともしっかり話をすると良いと思います。
もちろんうつ絶好調の状態では、相手がドクターだからといって、
思ったことをそのまま話すことはできないでしょう。
だったら、話せる範囲での話をすれば良いのです。
「言いにくいな……」というような話題は、言わなくたってかまいません。
言えるときに言えば良いのです。
そのあたり、医師はちゃんと患者の状態を見ていて、決して無理強いはしません。
そのうえで、信頼感を持てるかどうか、治療を任せて安心かどうか、
判断すれば良いと思います。
他の人はどうか判りませんが、私の場合で言うならば
たとえうつ絶好調の時であっても、「この人なら安心だ」と人を信頼することはできました。
ですがそうした感覚は、初対面ですぐに醸成されるものではありません。
しばらく付き合ってみて、安心して任せられる相手かどうかを見定める。
見定めるといっても、理論だった検証や分析はできないでしょうから、
まずは直感で良いのです。
病院を替えるとかなんとかは、それから考えれば良いと思います。